日本一の最長路線バス 奈良交通の八木新宮特急バスに乗る
日本各地に路線バスは走ってますが、高速道路を走らない路線バスで日本一運行距離の長い路線といえば、奈良県の大和八木駅と和歌山県の新宮駅を結んでいる奈良交通の「八木新宮特急バス」。
運行距離169.9km、停留所の数は168、始発から終点までの乗車時間が6時間半もある路線バスに乗ってみました。
近鉄大和八木駅のバスターミナルに行くと、新宮駅行きの乗車口案内がある。
時刻表を見ると新宮駅行きのバスは1日3本あり、朝9:15発の第1便に乗ります。
土日は、11:38発の第2便は主要停留所以外は通過する「やまかぜ」となり、所要時間が短くなる。
日本最長路線バスが毎日3便も出ているとは、沿線自治体からの補助金が出ているとはいえ、それなりに需要はあるようで。
全部で168カ所の停留所を全て書くと、なかなかのボリューム。
6時間以上乗りっぱなしなのでバスターミナルのそばにあるコンビニで飲み物と食料を買い、発車40分前の8:35頃に新宮駅行きのバス停へ行くとすでにおじさんが一人ベンチに座っており、一番乗りではなかった。
おじさんの隣のベンチに座り二番目のつもりで待っていると、若い女の子がしれーっとバス停の先頭に立つという。
うわ!割り込まれた?!と思いきや、小さなポーチを掛けただけの軽装なので、すぐに降りるのではないかと。
バスターミナルのロータリー中央部に待機所がありバスが数台止まっていましたが、その中に「特急301 新宮駅」を表示させたバスがあり、あれだな!とすぐにわかる。
同じバス停から9:05発のイオンモール橿原行きのバスが発車すると、9:06に新宮行きが入る。
整理券番号1番の整理券を取り乗車。
日本一の長距離路線だけに、新宮までの運賃は驚愕の6,150円!
新宮までの運賃で途中下車ができる乗車券「168バスハイク乗車券」を事前に買うこともできますが、今回私は現金で運賃箱に投入したかったので、あえて乗車券は買わずに整理券を取る。
2扉のノンステップ車ですが、山道を長距離走るからか座席は全て進行方向を向き、背もたれの高いセパレートタイプ。
バスに乗り込み発車を待っていると、運転士が「新宮まで通しでご乗車の方、手を上げてもらえますかー」と聞いてくるので手を上げると、なんと我々含め4人が新宮まで乗り通すみたい。
しばらくは大きめの郊外の街を進む。
あまり乗客の入れ替わりはなく、常に7割ぐらいの座席が埋まってました。
10:24、五條バスセンターに到着し、ここで10分間のトイレ休憩。
バスは降車専用の場所に止まり、ほとんどの人がバスを下りてバスセンターの向かいにあるイオンのトイレへ。
このバスが走るルートと、奈良のせんとくんと和歌山のきいちゃんのゆるキャラがラッピングされてます。
五條バスセンターでは休憩中に乗車扱いはせず、10分間の休憩後にバスのりばに移動して乗車扱い。
定刻は10:29ですが、バスセンターに到着したのは10:24だったので、10分休憩後に乗車扱いし発車したのは5分遅れの10:34。
その後、五条駅で9割ほどの座席が埋まり、なかなかの乗車率。
傾斜のあるヒルクライム区間に入ると、AT車なのでギアが上がったり下がったりを繰り返す。
一見アメリカみたいに右側を走ってるようですが、後ろの窓から後ろ向きに撮ってます。
程なくして後ろに乗用車を従えますが、退避できるバス停で後続の乗用車をやり過ごす。
地元の軽トラはよくわかってるので車間を開けてついて来ますが・・・
道幅も所々狭くなり運転に集中しなければならないせいか、バス停のアナウンスを忘れることが多くなり、通り過ぎたバス停を何度もスキップしながらアナウンスを流す。
しかも、バス停一つあたり、前のバス停通過直後と到着直前の2回放送するので、余計に放送ボタンを押す回数が増えて大変そう。
奈良の山の中を進み、紀ノ川水系と熊野川水系の分水嶺のある天辻峠を抜けると・・・
川に出ると「くまのがわ」の国交省の看板がありますが、五条市や天川村では「天ノ川(てんのかわ)」と呼ばれています。
国道168号線もバイパス整備が進んでますが、集落があると国道バイパスを外れ、旧道沿いにある集落へ入って行くのが路線バス。
真新しい茶色いアーチ橋の国道から、古めかしいトラス橋の旧道へ。
一度に3人以上で渡ってはいけないようで、まさに生活のための橋。
集落を抜けると国道に戻り、次の集落で再び国道を離れて集落へ。
バイパスの橋脚を見ると崖に無理やり建てた感もあり、難工事ぶりがうかがえる。
集落内は道幅が狭く離合も難しいのですが、そもそも車が走ってない、というか、ひと気もほとんどない。
住民がいるのかいないのかよくわからないような数件の家しかない集落にも立ち寄る。
ここでUターンし、来た道を戻ってバイパスへ出るような場所も。
この辺りは2011年9月の台風12号による豪雨災害で土砂崩れが複数発生し、崩落した土砂で川が堰き止められ氾濫して甚大な被害が出ましたが、いまだに斜面が崩落した跡が残ってます。
11:46、ちょうど宇井の集落で、早朝5:53新宮発大和八木行きのバスとすれ違う。
生活道路として使われている吊り橋としては日本一と言われている、谷瀬の吊り橋へ。
12:04、谷瀬の吊り橋を少し行き過ぎたところにある上野地バス停に到着し20分の休憩。
ここで運転士もお昼を食べるようで。
上野地バス停の時刻表を見ると、八木新宮線の他に十津川村内のバスが平日に1本。
せっかくなので休憩時間を利用して、20数年ぶりの谷瀬の吊り橋を見に行くことに。
長さ297m、高さ54mの吊り橋は、20人以上が橋の上にいると危険という。
観光スポットにもなっていて、見張り小屋もある。
渡れるところは木の板4枚分の幅しかなく、金網から下の川が丸見えでスリル満点。
対岸の集落の生活道路にもなっており、おじいちゃんが原付で渡ってたりすることも。
橋も揺れるし、高いところが苦手な人は渡れないでしょう。
でも、徳島県のかずら橋よりは怖くない。
以前、橋のたもとにあった商店と展望レストランがあった建物は、今まさに解体されているところ。
解体工事の期間中、谷瀬の吊り橋と周辺道路は全面通行止めになるという。
熊野川は、十津川村では「十津川」と呼ばれています。
川の水がだんだん増えてくると・・・
風屋ダムから南側は、国道168号線のバイパスが整備されておりとても走りやすそうですが、やはり集落があると立ち寄ります。
奈良交通の営業所とバスの待合室、さらに十津川温泉の源泉かけ流しの足湯も。
10分間の休憩ののち13:40に十津川温泉を出発し、いよいよ和歌山県へ。
14:28、熊野本宮大社に到着。
本宮大社前はバスターミナルが整備されており、ここでたくさん乗って来ますが、目算で2/3は外国人。
座席は全て埋まり立ち客も出て、都会のラッシュ並の混みっぷり。
本宮大社から湯の峰温泉へ行く道路が通行止めになっているので、バスは一旦国道311号線を経て渡瀬温泉側から迂回するため10分程度遅れる旨のアナウンスが入り、満員の乗客はいつもより長時間峠道のバスに揺られることに。
山道を登って湯の峰温泉を通り過ぎ、転回場所でUターンして通常ルートに戻ると、定刻から9分遅れの14:43に湯の峰温泉へ。
大塔川へ出ると川湯温泉。
川湯温泉とその次のふじや前で外国人乗客はみんな下車しますが、外国人は小銭しか使えない運賃支払いシステムに慣れていないようで、運転士がカタカナ英語で必死に徴収してました。
川湯温泉は大塔川を掘ると温泉が出ることから河原に露天風呂があったりしますが、川に入って整えているおじさんの姿もあったり。
さすがに真っ裸ではなかったけど。
熊野川に沿って国道168号線を南へ走りますが、和歌山県に入ってから急激にバス停の数が少なくなる。
このバスは「特急301系統」と言ってるのに全バス停に止まるやん!と思ってたら、和歌山県に入るとバス停を通過しまくり、ようやく特急らしくなる。
大和八木駅を発って6時間45分、定刻から13分遅れの16:00に新宮駅に到着。
整理券番号は111番まで進んでいて、整理券番号1番の運賃は6,150円×2人分で12,300円。
小銭投入口とは別に紙幣を入れる箱があり、ここへ1万円札を入れる。
路線バスの運賃箱に1万円札を投入するという、なかなか珍しい経験でした。
大和八木駅~新宮駅間を途中下車せずに同一便で完乗すると、記念品として八木新宮線の路線図と記念乗車証がもらえます。
この完乗記念品をもらったのは、私たちの他に、大和八木駅で私らより早くベンチに座っていたおじさんと、ベンチに座るジジイ達を差し置いてしれっと先頭に並んだ軽装の女の子。
君、ペットボトルも持たずに6時間45分も乗ってたの?!
とビックリ。
もはや修行みたいに思えるかもしれませんが、乗ってる間はそれほどキツくもなく、車窓を楽しみながらの日本一の長距離路線バスの旅でした。