原子力発電所を見学
私は今、労働組合の役員をやってるんですが、日頃からお付き合いのある関西電力労働組合さんが、組合の役員向けに企画された原子力発電所での研修に参加してきました。
去年、福井県の美浜原子力発電所へ見学に行ったばかりなのでパスしようかと思ったんですが、今回は”研修”なので普段立ち入ることが出来ない管理区域内にも入れると聞き、 参加することにしました。
関西電力さんがチャーターしたバスで、福井県の大飯原子力発電所へ向かいます。
大飯原子力発電所は、現在、日本で最大級の出力を持つ発電所。
途中、バスの中ではパンフレットを使って、原子力発電所の仕組みと安全性、そして原子力発電の必要性の説明がありました。
私は前回も同じ説明を聞いていましたが、前回と違ったのは、管理区域に立ち入る際の注意点の説明があったことです。
原子力発電所を略して「原発」と言いますが、「原発」というとイメージが悪いから「原電」と呼んで欲しいそうなので、ここでも「原電」と書くことにします。
大飯発電所に着くと、まずPR館にある『ウェルカムホール』と呼ばれる見学者用の待合室に通されます。
PR館 「おおいり館」
待合室といってもちょっとした小会議室みたいな立派な部屋で、見学時の注意点について説明を受けます。
ここで見学者には『見学証』が発行され、発電所内では『見学証』をはっきり見えるように付けていなくてはなりません。
周辺監視区域用見学証
原子力発電所では法律によって「管理区域」「保全区域」「周辺監視区域」に分けられ、それぞれのレベルで放射線管理が行われています。
一般見学者向けの見学コースは「周辺監視区域」内にあり、この青い見学証で入ることが出来ます。
今回は最も厳しい「管理区域」まで行くので、その手前の「保全区域」へ立ち入るための見学証も一緒にもらいます。
保全区域用見学証
その後、構内見学用のバスに乗り換えて、いよいよ発電所内へ向かいます。
以前は自分たちが乗ってきたバスでそのまま発電所内を回れたんですが、テロ事件以降は発電所側が用意したバスでなければ立ち入ることが出来なくなりました。
構内見学専用バス
写真撮影もテロ事件以降はセキュリティの都合上一切禁止されていますが、今回は特別に許可を頂いて撮影させていただきました。
「本当に撮ったらマズイところは言いますので、そこは撮らないで下さい」とのことでした。
という訳で、
ここで使っている写真は全て許可を得て撮影しています。
発電所の入口には、鉄柵が二重に設けられている検問所があり、警備員一人が車輪の付いた鏡をバスの下に入れてチェックし、もう一人が車内に乗り込んできて、見学者証の確認と人数チェックを行ないます。
検問所には福井県警の機動隊も常駐していました。
発電所の建屋に入り、一般見学用にシースルーになった見学コースを回ります。
シースルーの見学コースは普段着のままで見学することが出来ます。
シースルーのガラス越しに見た核燃料貯蔵庫。
新しい燃料と使用済の燃料も貯蔵されており、 ガラスの向こうは「管理区域」にあたります。
この貯蔵庫には核物質が保管されているため、IAEA(国際原子力機関)の査察用カメラが設置されています。
このカメラで、不当に核物質が持ち出されていないか常時監視しているそうです。
北の某国は、勝手にこの監視用カメラの向きを変えたことでニュースになりました。
ちなみにIAEAの査察はいつも抜き打ちだそうです。
発電所の中枢部、中央管制室。
ここで原子炉のコントロールを行なっています。
3交代24時間体制で運転を行なっており、原子炉を操作するには10年以上の研修と国家資格が必要です。
中央管制室には静電気防止用の靴を履き、IDカードと指紋を照合し登録された人でなければ入ることが出来ません。
さあ、いよいよ普段は入ることが出来ない管理区域へ入るための手続きをします。
予め、私の名前が登録されたIDカードと放射線測定器をもらいます。
放射線測定器は見学者がどの程度放射線を浴びたかを測定し、設定値以上になるとアラームが鳴ります。
アラームが鳴ったらすぐに退避しなくてはなりません。
今回は見学者用に0.08mSv(ミリシーベルト)に設定されていました。
これはおよそレントゲンを2回撮影した時の放射線量だそうです。
ここでは0.00mSvで、放射線は浴びていないことを示しています。
その後、管理区域への玄関である「入退域管理装置」でチェックを受けます。
ここではいつ誰が管理区域へ入ったかが記録されます。
出るときにもチェックを受け、滞在時間などが記録されます。
チェックが終わると防護服に着替えます。
ここで作業されている方は、みんなパンツ1枚(場合によっては下着も脱いで)になって防護服を着用するそうですが、 見学者は普段着の上から白衣を着ます。
帽子の上からヘルメットを被り、手袋、靴下、専用靴も着用します。
防護服といっても放射能から体を守るものではなく、放射能を外部へ持ち出さないようにするためのものだそうです。
この防護服のポケットに、放射能測定器とIDカードを入れます。
テレビで見る北の某国のニュースで白衣姿で作業している姿が映っていますが、まさにそんな感じ。
さっき、ガラス越しに見た核燃料貯蔵庫。
ここには使用前の核燃料が保管されており、監視カメラが四方に設置されています。
使用前の核燃料はまだ中性子を当てていないため核分裂は起こしておらず、放射線は出ていません。
よって空気中に保管されています。
その横には使用済の核燃料が保管されており、使用後このプールで冷やされます。
この使用済核燃料の貯蔵プールはホウ酸水で、青い色をしています。
この燃料からは放射線が出ていますが、 水には放射能を遮蔽する能力があるので、水に沈んでいる限りは直接見ても安全だそうです。
この水の中に落ちると大変なことになるそうですが・・・(怖)
中へ入っていくと曲面のコンクリートの壁があり、これが原子炉格納容器です。
原子炉格納容器の壁の一部に大きく分厚い鉄の扉があり、これは核燃料交換時の搬入口だそうです。
この搬入口の扉を開けるにはやはりIAEAへの届出が必要で、扉にはIAEAの封印がしてありました。
北の某国が勝手に封印を外したというのは、まさにこの封印です。
原子炉格納容器は密閉されており、出入口となるエアロックが2箇所設けられています。
外側の扉を開き中に入ったあと扉を閉め、反対側の扉を開けるとそこは原子炉です。
しかし、私たちはここまで。
管理区域から出る時も、放射性物質を外部へ持ち出さないためのチェックがあります。
まず「退出モニター」の中に入り、放射性物質に汚染されていないか、放射性物質が付着していないかをチェックします。
汚染がなければそのまま通ることが出来ますが、もし汚染されていた場合は放射線がなくなるまで洗浄しなくてはなりません。
人間だけでなく、私が持ち込んだカメラも検査します。
カメラは、別にある専用の測定器で放射能汚染をチェック。
私もカメラも、無事通ることが出来ました。
そして再び「入退域管理装置」にIDカードと放射線測定器をセットしチェックを受けると、晴れて管理区域から出ることができます。
今回の見学で原子力発電に関する知識を深めることができ、大いに勉強になりました。
原子力発電は世間からの風当たりも強いので、電力会社側もこういう見学会を通じて原子力発電に理解してもらおうとしているのだと思います。
確かに現状のエネルギー需給状況からすると、原子力発電は必要だと思います。
しかし、将来的には原子力発電は廃止する方向で取り組まなければならないと感じました。
やはり原子力発電は危険が伴うもので、いくらハード面で厳格に管理されていてもソフト面の管理が不十分で事故につながることも考えられます。
日頃から放射線の管理は徹底してやっていることは体験出来ましたが、危険だからこそ、このような厳しい管理が必要な訳で、 JCOでの臨界事故などのように管理に抜け穴が出来る場合もあるのではないでしょうか。
また、事故には結びつかなくとも東京電力のトラブル隠しなど、安全上のマイナス面はひた隠しにされているのです。
決して対策が万全ならば安全であるということはないだろうと思います。
現在のエネルギー政策は、「これからはどんどん電力が不足する」という電力会社の販促に乗っかっているかのように供給を増やす方にに重きが置かれています。
しかし、これからは需要の方を減らす政策も必要だと思います。
自然エネルギーを利用した発電の研究も進められていますが、経済的な理由でまだ本格的に実用化されていません。
しかし、これからは原子力にぶら下がるものではなく、やはり自然エネルギーを利用していかなければならないでしょう。
最後に、今回ホストを務めて下さった関西電力労働組合の皆さんには非常に丁寧に所内を案内して頂き、ネガティブな質問にも誠意を持って答えて下さいました。
非常に感謝しております。
この場を持って改めて御礼申し上げます。